特許第5511888号「浮力式回転装置」が、「発明」に該当しないことの説明
この装置は、ウィキペディアの「永久機関」の説明等に載っている、「浮力を利用した永久機関」の図(右の図、ウィキペディアより引用)と同じ原理です。発明としては実現不可能ですので、“インチキ発明”と言えるような類のものです。
具体的には、この特許文献の図(右の図、特許文献より引用)を見てもらえばわかる通り、図の左側のフロートが浮力を受け、それによって装置が回転するようになっています。フロートが最も上の位置に来た時に、空気を抜いてフロートをつぶし、代わりに最も下の位置に空気を送り込んで新たなフロートを出現させる、といったものです。
あらゆるエネルギー損失がないとした場合には(第2種の)永久機関と考えられます。その原理は中学校理科の範囲で理解できるものですので、以下、説明します。
まず、装置の一番上のフロートと、一番下のフロートとの鉛直方向の距離を H 、フロートの体積を V 、とします。また、装置は n 個のフロートの浮力によって回転し、一番下のフロートが回転を始めてから、次の新たなフロートが一番下に出現するまでを 1 ステップとして考えます。
(1) 1 ステップの間にn 個のフロートがなす仕事の和 W
各フロートに働く浮力 F は、
n 個のフロートは、次のフロート位置まで移動するので、各フロートについての浮力による仕事の和 W は
(2) 一番下に出現する新たなフロートのなしうる仕事 E (位置エネルギー E )は、
(3) ①、②式から W = E となります。そうすると、既存のフロートに働く浮力による仕事は、すべて一番下に新たなフロートを出現させるために使われてしまうことがわかります。
(4) すなわち、あらゆるエネルギー損失が無視できると仮定したならば、装置は「第2種の永久機関」と考えられます。第2種の永久機関は、永久に運動を続けられる機関ですが、そこから外部にエネルギーを取り出すことはできません。
もちろん、現実に「あらゆるエネルギー損失が無視できる」といった仮定も成り立たないのは常識です。外からエネルギーを与えて始動させたとしても、エネルギー供給が止まれば、装置は自然に停止してしまいます。
(*)位置エネルギーを考える代わりに、一番下のフロートに空気を送り込むことを考えても、②式になります。一番下のフロート位置での液体圧力 P は、
この圧力に抗ってフロート体積 V の分だけの空気を送り込む必要がありますが、体積は断面積 A と距離 l との積ですので、(圧力 P)×(断面積 A)=(力)とし、その力が距離 l だけ働いてする仕事を E と考えれば、
(**)なお、上の内容はすべて、中学校理科の履修範囲内です。
最終更新日 2017年7月7日
一番下に新たなフロートが出現するまでの間に既存の各フロートがなす仕事の和と、一番下に新たに出現するフロートのなしうる仕事(位置エネルギー)とが等しくなります。浮力、仕事、位置エネルギーといった事項は、現在、中学校理科の履修内容のはずですが、中学生には少し難しいかな。🙂 https://t.co/v7cGdUa0ip
— K. Ebato (@ebaTweety) 2017年6月30日